眠れない。ああ、だめ。眠くならない。これじゃあ布団に入っても絶対に眠れない。なんで?別に今日お昼寝しすぎたわけでもないし特別何かをしたというわけでもないのに。よくわからないけど眠くないのだ。
よし、と私は読んでいた本に手製の栞を挟んでキッチンに向かった。小さめのマグと、冷蔵庫からミルクを取り出した。とぽとぽとミルクをカップ8分目くらいまで注ぐ。レンジに入れて、スイッチを押した。静かな部屋にレンジの稼動している音が大きく聞こえた。棚からバニラエッセンスを取り出して、人肌よりちょっとあったかいミルクに2滴たらす。(ん・・いいにおい)

ソファに腰をおろして、一息ついて一口ミルクを口にいれた。ごくりと飲み込んで、なめらかなミルクが喉の奥をすべっていく。じんわりと体が温まる時間をかけて、ゆっくり飲み干すと、とても落ち着いた気分になった。
こんなに静かだといろんなことを考えて、少しセンチメンタルになる。まあ私が考えることと言ったらディーノのことと、大学の講義のこと、それと朝ご飯はなににしようかとか。そういうこと。今ディーノは何をしてるんだろう。今はイタリアにいる愛する人のことを考えるとちょっぴり涙が出そうになった。鼻の奥がつんとして、「ディーノ、」とぽつりとつぶやいたそれは誰もいない8畳の寝室に広がった。


***


「・・ディーノ?」
眠れない私はキッチンでホットミルクを作り、部屋に戻るところだった。あれ、ディーノの仕事部屋、まだ明かりが点いている。「まだ、お仕事?」と問いかけた私の言葉に反応してディーノは顔をこちらにむけた。

「んー、少し溜まってるからさ。もう少しで終わるよ」
「そっか。コーヒー、淹れようか?」
「いや、いいよ。それよりはどうした?こんな時間に。」
「なんか眠れなくて。ホットミルクでも飲みに。」

マグを持って、ディーノのほうに向かう。「ホットミルクか、なあ、俺にも」
「え、私まだ一口も口つけてないのに」
「いいだろー。ん、うまい。」


人がまだ一口も飲んでいないと言っているのに、言ってるそばからディーノは私の持っていたマグから一口のんだ。「。」何、という間もなく気づいたゼロ距離。キスされていた。はちみつを舐めるように、えっちなうごきでディーノは私の口内を犯した。ん、ふ、とくぐもった声が出て、少しして唇が離れる。甘いミルクの味。
私が自然と唇に手を当てて、「甘いね。砂糖いれすぎちゃったかもしれない」と言った。お砂糖よりも甘いキスをくれたディーノは身も心もとろとろに蕩かすその瞳で、私を見た。ひどい、そんなの反則じゃない


「眠れなかったんだろ?ホットミルク味のキスはどうだった?」
「うーん・・なんか、よくわかんない」
「ははっ、キスしたあとのの表情は確かにとろんとしてて可愛い、俺だけが見れる表情。」

もう、そんな台詞言わないでよ。胸がきゅんっとときめいた。





甘い、ホットミルクよりあまい
(ねえ、お仕事終わったら一緒にねよ?)(そうだな、朝までずっと抱きしめててやるよ)100723*ちさと
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