この前乗った電車の中吊り広告に「キスで相手の気持ちがわかる」、と書いてあるのをを見かけた。
そんなことあった試しがない。この前だってもう苦しい、と思ったところで光はキスをやめてくれない
光に借りたバンドの曲をぼんやり聞きながらその中吊り広告を見ていた。



その日は部活が久々のオフだった、光に「どこか、行きますか」って聞かれたけども特にこれが欲しいとかそういうこともなくて、 私は「じゃあ、光のおうち」と言った。

「別にいいっすけど」
「この前言ってたDVD借りたから見たいの」

そのDVDは私が前から気になっていた外国の恋愛映画だった。見に行かなくちゃ、見よう、と思っていながらもなかなか日程が合わなくて そうしているうちに終わってしまったのだ。
その映画が先週DVDになったというのを、いつだか忘れてしまったけどただ流していただけだったテレビの特集で見た。



映画のエンドロールを見ながら、ぽつりぽつりと会話が始まった。
「どうでした」
「・・うん、すっごいよかった、けど最後がちょっと好きじゃなかったな」
「そうっすか」

映画を見るときに出してくれた麦茶を口に含みながらテレビの方を向いている光を見た。
右耳にふたっつあけられたピアス、首から顎にかけてのきれいなラインをじっと見ていると、その視線に気づいたらしくこっちを向いて「なんすか」と言った。

「光」
そう名前を呼んで、光が反応する前に私は光の口を塞いだ。突然のそれに驚いている光。わあ、珍しいもの見れちゃった。
私がしたそのキスはそんなに深くなくて軽くちゅっと最後に唇を吸って離れた。

「珍しい」
映画見てキスしたくなったんですか、と付け足しながら光は言った。
「なくはないけど、あのね、この前中吊り広告で見たの。キスすると相手の気持ちがわかるんだって!」
「・・へぇ」

私の気持ちわかった??と言った私の顔色はすごく期待に満ちているような顔をしている気がした。
ちょっとどきどきしながら光の事を見てると、光はくつくつと笑いながら「当たり前やないですか」と言いながら私のコップに残っていた麦茶を飲み干した。

「えっ、嘘、ほんとに言ってる??」
「当てたりましょうか」
「うん、」


私が耳が弱いのを知っていて、ゆっくりとした仕草で耳たぶをぺろりと舐めた。思わず出た私の上ずった声を聞くと満足そうに笑って、それを続けた。
耳だけでは足りないのかほっぺたとか首とか鎖骨とか、唇以外のいろいろなところに口づけられる。ついに着ているブラウスのボタンに手かかったときに 「ちょ、ひかる」と声をかけた。

「私の思ってること、あてるんじゃないの」
「せやから、今してるやないですか。」
「え?」

「先輩の思うてること、その一、俺とキスしたい。その二、俺とエロイことしたい」
「え、それ光の思ってることじゃないの?」

「ようわかりましたね。」
あっさり認めた光の顔見ながら私は「あっ」とつぶやいた。

(あの中吊り広告当たってた・・・)




│120922│ちさと
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